労働人口の減少、政府が進める「働き方改革」、さらに若者の就労意識の変化に伴い、慢性的な人手不足に悩む業界も少なくありません。このような社会情勢を考慮すると、企業にとって最重要課題となるのが、限られた人的リソースを有効に活用すること。そのために、業務改善を進めて業務効率化、生産性向上を実現する必要があります。ここでは、業務改善の効果と取り組みのポイントを紹介します。
【目次】
1 業務改善とその効果とは?
業務プロセス見直しの効果は、製造業で69.5%が最多、平均で約62.2%が効果を実感しています
業務改善とは文字通り、各業務プロセスの流れ、業務の内容・目的のほか、さまざまな社内手続き、定例会議に至るまで、企業の業務全体を見直して改善することです。業務効率化や経費削減に向けた取り組みも業務改善の一つです。
それでは、業務改善には、どういった効果があるのでしょうか。中小企業庁『中小企業白書』の2018年度版にある業務プロセス見直しの効果を見ると、「業務見直しの実施による人手不足や生産性向上への効果の実感状況」について、いずれの業種でも「期待した効果が得られている」、「ある程度の効果は得られている」とする回答が半数以上に上っており、業種を問わずその効果を実感していることが分かります。
最大のメリットは生産性に向上あり
労働生産性が向上したと回答した率を比較した場合、「特段、業務の見直しは行っていない」の25.3%に比べ、「全社単位で業務の見直しを行っている」企業は54%と、約2倍の開きがあります
また、同調査による経年変化を見ると、業務を見直し・改善することで、生産性を向上すれば人手不足も解消できることが分かりました。
業務改善の3つの効果
業務改善の具体的な効果としては大きく次の3つが挙げられます。
①コストの削減
業務で発生している無駄な作業を省くことで時間や作業量を減らせます。「以前から行われてきた」という理由だけで慣習的に実施されている会議、手続き、書類作成などが該当するでしょう。
例えば、社員1人当たり15分の無駄をなくすことができれば、「1日15分×1カ月20日×12カ月=3,600分(60時間)」の労働時間の削減につながります。社員の時給を2,000円とすれば、実に年間12万円の人件費に相当します。社員1人で見ればそれほど大きな金額ではありませんが、社員100人の会社ならば年間1,200万円、社員1,000人の会社ならば年間1億2,000万円の人件費を、新規事業の開発など全く別の業務に振り分けることができるのです。
②生産性の向上
中小企業庁『中小企業白書』2018年度版でも、業務改善を進めたことで「3年前と比べて労働生産性が向上した」とする企業の回答は、「業務の標準化・マニュアル化」で46.1%、「不要業務や重複業務の見直し・業務の簡素化」で45.9%などとなっています。
③働きやすい職場環境
特定の部署・社員に対し業務量過多となっている場合、有能な人材の流出を招くことにつながります。そのため、人員配置の適正化や担当業務の見直しといった取り組みが不可欠です。また、風通しの良い職場環境をつくることで、若手や就活する学生にとっても魅力的な働きやすい企業だと、受け止められるでしょう。
2 業務改善の5ステップ
業務改善を、思い付きで目に付いたことから始めては、効果は微々たるものでしょう。まずは、業務を取り巻く現状を把握した上で、計画的に実施していく必要があります。
「どのような改善点があるのか」「どのように改善していくのか」というプランを立て、経営層が改善ビジョンを明確に描くことが大切です。同時に、取り組みやすさ、取り組みに要する費用と効果などを踏まえ、優先順位を明らかにしていきます。
業務改善の取り組みについて、順を追って見ていきましょう。
ステップ1 改善すべき業務を見つける
業務改善を始める上で重要なのが目的を明確にすること。「形骸化している作業や手続きをなくすための改革」「経費削減が狙い」「より良い労働環境を作るための改善」など、具体的な目的を設定しましょう。
業務改善を始める上での具体的な方法としてはQCD(Quality, Cost, Delivery、品質/費用/納期)やECRS(Eliminate, Combine, Rearrange, Simplify、除去/結合/整理・再編成/簡素化)といった考え方を用いて進めていくことができます。
品質管理に大切なQCDとは
Quality:クオリティー=品質
Cost:コスト=費用
Delivery:デリバリー=納期
上記に示した3つの要素です。業務効率化や経費削減によって品質、コスト、納期の改善を実現していくことが重要になりますが、一方で3つの要素はそれぞれトレードオフの関係にもあります。
品質を保つためにはコストがかかり、納期を早くすることで品質を犠牲にしてしまう場合もあります。業務改善では何を優先するのかを見定めていく必要がありますが、企業にとって品質は生命線であるため、基本的には「クオリティー>コスト>納期」の順で改善点を洗い出していくことになります。
また、生産者サイドと、消費者サイドから見たQCDでは異なる部分も出てきます。生産者は「コストや納期がかかっても高い品質を保ちたい」、一方、消費者は「品質は大事だけど、安くてすぐ手元に届く方がいい」という場合もあります。
顧客ニーズを踏まえながらこれらの3要素のバランスを図っていくことが大切です。
改善の4原則ECRS
Eliminate:エリミネート(除去)=無駄な業務をなくす
Combine:コンバイン(結合)=業務をまとめる
Rearrange:リアレンジ(整理・再編成)= 業務処理の効率化、作業環境の見直しをする
Simplify:シンプリファイ(簡素化)=業務をマニュアル化する
業務改善を進める上での代表的な考え方が「ECRS(イクルス)」です。上記の4つの視点から各業務の改善方法を進めていきます。一般には「E→C→R→S」の流れで業務改善を進めていくことが良いとされています。また、取り組みの効果としては「E>C>R>S」の順で大きくなる傾向があります。
こうしてみると、まずは「無駄な業務」をなくすこと、減らすことが業務改善の第一歩といえます。
ステップ2 業務の「見える化」
コア>ノンコアの境界を見極め、人・量的コストをどこに集中するかを明確にすることが大切です
業務改善は企業の経営層が主体となって進められるケースがほとんどですが、現場の業務プロセスがブラックボックス化している状態では手が付けられません。現場へのヒアリングを行って、「どの業務にどれだけの時間がかかっているのか」、現場が抱える課題を「見える化」します。
例えば、移動時間や社内会議といったノンコアに要する時間を短縮することで、本来の担当業務、コア業務に充てる時間を確保できます。現場にゆとりが生まれて、仕事へのモチベーションも高まります。
ステップ3 業務の「マニュアル化」
企業活動のベースは「利益を最大化」すること。業務改善がここから外れてしまうようでは取り組みの意味がありません。
ステップ1でも述べた通り、業務改善は具体的な目標を定めて定量的に考えていく必要があります。数字で目標と結果を照合することで、取り組みの効果、不足している部分、これからの修正点も見えてきます。
業務の「マニュアル化」も取り組みを定量的に進めていくための重要な手段です。担当者ごとに異なる手順で行われてきた業務プロセスをマニュアル化することで、業務にかかる具体的な時間、作業量が見えてきます。
発注書や請求書、そのほか社内で使用するさまざまな書式の定型化といった細かい作業や手続きまで統一してしまえば、担当者ごとの作業のむらもなくなります。
業務のマニュアル化は熟練社員のノウハウを全社員で共有できるので、生産性の向上にもつながります。ベテランスタッフの知見を生かした顧客対応の標準化は新人スタッフ、外国人スタッフの業務クオリティーを一定の水準に保ち、人手不足対策としても効果的です。
ステップ4 業務の「システム化」
業務効率を飛躍的に向上するためには生産や販売、品質管理といった会社の基幹部門のICT(Information and Communication technology、情報通信技術)化、システム化は欠かせません。近年は会社の業務全体の最適化行うため、従来の基幹システムやERPなど、ソフトウェアの導入を進める企業も増えています。
ERPは各基幹システムが担うモジュールを一元的に処理できますが、業務のマニュアル化、書式や用語の定型化はERPへのスムーズな対応という点でも有効です。また、クラウド上で運用する企業も増えています。
SaaSとは|バックオフィスからマネジメントまでをクラウドで運用するデジタル時代の必須ツール
ステップ5 課題をPDCAで解消していく
業務改善は改善計画を作成した上で実行していきます。PDCAサイクルを回しながら計画をブラッシュアップしていく流れになります。
PDCAサイクルは、
・Plan=計画
・Do=実行
・Check=評価
・Action=修正
を繰り返しながら継続的な計画に取り組んでいきます。サイクルの中で新たな課題や不足する部分も明らかになってくるので、日々、修正を加えながら計画を進めていきます。
業務改善の成功=オペレーショナル・エクセレンス
このようなステップを踏むことで、業務改善の効果を得ることができます。経営層はもちろん、現場でも業務改善を常に意識することで、業務を遂行するオペレーションを常にアップデートし、市場に対し優位性を発揮できるのです。このことを、オペレーショナル・エクセレンスといいます。
3 業務改善に成功した企業事例
ここでは、業務改善への取り組みを進めた企業事例を、中小企業庁『中小企業白書』(2021年版)「事業継続力と競争力を高めるデジタル化」に掲載されたものから、見ていきましょう。業務改善には、ICTツールの活用が必要ということも分かってきます。
建物サービス業
従業員数:141名
資本金:2,300万円
改善内容:工事現場の進捗管理、業務配分の適正化
活用ツール:クラウドサービス
限られた人手で受注量を最大化することが課題でした。経験豊富なベテラン従業員の数が、若手従業員より低くなっていることが背景にあったようです。
クラウドサービスの導入を行い、現場単位で管理していた工事の進捗状況を、本社が一括管理するように変更。また、現場写真などのデータ収集・管理は若手従業員に、ベテラン従業員は難しい工事の現場作業に注力させました。経験が不要な仕事を集約化したことで、若手とベテラン双方の生産性を高めることに成功しました。データ管理などは時間も場所も選ばないので、子育て中の女性従業員が、家事や育児の合間に自宅で仕事をできるようになりました。また、データ管理と並行して、書類の電子化やチャットツールの利用を社内で徹底しています。
調味料の製造・販売業
従業員数:70名
資本金:1,500万円
改善内容:顧客情報の抽出、定型業務の自動化
活用ツール:RPA(Robotic Process Automatio、ロボティック・プロセス・オートメーション)
売上げの約80%を「御用聞き」で稼ぎ、電子手帳の活用や残業時間削減のための業務改善を行っていたが、顧客情報の管理業務により退社時刻が遅くなることが課題だった。
その後、RPAを導入しますが、IT(Information Technology 情報技術)と導入補助金を活用して導入費用を抑えました。まずは、電話をかけるべき顧客を自動で抽出する機能の実装。また、ベテランの営業ノウハウを生かしながらアポイントメントの頻度、優先順位を数値化し、訪問優先度の高い顧客の自動リスト化、顧客情報に入力する用語の社内統一化などを行いました。その結果、RPA導入前と比べて、従業員の残業時間は1人当たり月3時間6分の減少を実現しています。
(コラム)業務改善助成金の活用
企業の業務改善をサポートする補助金や助成制度が実施されています。経済産業省や中小企業庁、厚生労働省の各ウェブサイトでもお知らせしているので随時チェックして活用しましょう。
例えば、厚生労働省では「業務改善助成金」を実施しています(2021年9月時点)。「業務改善助成金」は中小企業や小規模事業者が生産性向上のための設備投資(機械設備、POS(Point Of Sale 販売時点情報管理)システム等の導入、コンサルティング導入や人材育成・教育訓練)などを行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合に、設備投資費用の一部について助成が受けられる制度です。
厚生労働省 業務改善助成金:中小企業・小規模事業者の生産性向上のための取組を支援
テクノプロ・IT社のERPのご紹介
大手企業を中心に2,000を超える取引先を持つテクノプロ・グループの一員であるテクノプロ・IT社は、世界規模のメーカーや大手IT企業などを中心に、多数のユーザー企業のシステム構築の支援をさせていただいております。
企画・構想段階から稼働・運用のフェーズに至るまでの各工程で経験を積んだプロフェッショナルが率いるチームが、各部門のプロセスの合理化を可能にする「SAP ERP」のスムーズな導入の実現に向けて多角的にサポートします。
・豊富なユーザー企業支援実績
・長期的な支援を可能にするサポート体制
・柔軟なソリューション提供形態
テクノプロ・IT社の提供する「SAP ERP」サービスについてはこちらをご覧ください
企業が行うさまざまな部門の業務フローを一元管理できる「SAP ERP」の詳細はこちらの記事でも詳しく紹介しています。
業務の効率化のために欠かせない基本知識をおさらいしましょう
業務改善以外でも、業務の標準化や基幹システム、ERPなどのソフトウェア導入など、あらゆる部門のプロセスの合理化は、今や企業経営には必須の時代です。気になる方はこちらもチェックしてください。